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流通業・小売業のID管理、店舗アカウント管理の妨げとなる「ノンデスクワーカー」問題とは? 現場に適したID管理と認証基盤を考える

近年、流通業・小売業においてDXを推進する上で、ノンデスクワーカーのID管理が課題となっています。多くの企業のID管理がオフィスワーカーを前提とする中、現場で働くノンデスクワーカーのIDやアカウント情報を適切に管理できていないことが、DX推進の妨げになっているとの指摘も増えています。そこで本コラムでは、流通業・小売業のID管理の課題を整理し、どのようなID管理・認証基盤が求められるのかを考えます。

流通業・小売業のDXで見落とされがちな「ノンデスクワーカー」とID管理の課題

国内のノンデスクワーカー人口の割合は過半数——これは、総務省「国勢調査」をもとにリクルートワークス研究所が分類した結果によるものです。「概ねノンデスクワーカー」が全体の54.9%、「デスクワークもあればノンデスクワークもある」が17.0%、「概ねデスクワーカー」は28.1%という結果となりました。

※ 出典:リクルートワークス研究所  『なぜノンデスクワーカーか-日本経済の中核を担う職種-』  を加工して作成

流通業・小売業はこのノンデスクワーカーが現場業務の中核を担っています。ノンデスクワーカーには、PCを日常的に使わない店舗スタッフ、倉庫・物流スタッフ、パート・アルバイト、派遣・委託スタッフなどが含まれると考えられます。

ここで問題となっているのが、流通業・小売業がDXを推進する際に、ノンデスクワーカーがアカウント管理の対象から外れてしまう可能性があることです。その理由の一つとして、PC利用を前提としたアカウント発行の仕組みでは、現場で働くノンデスクワーカーのIDやアカウントを適切に管理しにくいことが挙げられます。

つまり、DXの推進に伴って利用する業務システムは増えているものの、現場で働く従業員のID整備が追いついていない状況が発生しているのです。このような流通業・小売業のID管理の課題と、その整備が遅れることによるリスクについて、次項で詳しく見てみましょう。


流通業・小売業のID・アカウント管理の課題とリスク

流通業・小売業におけるID管理では、「高い流動性(入退職・異動の多さ)」や「多様な雇用形態(パート・アルバイト・派遣など)」に起因して、運用負荷の増大やセキュリティ対策の難しさといった課題が生じています。このような運用管理やセキュリティ対策への対応は、企業にとって大きな負担となっています。具体的に、どのような課題が発生しやすいのか見ていきましょう。

  • 入退職・異動に伴うアカウントの発行・削除の手間

    パートやアルバイトの採用・退職、異動の際、管理者がアカウントの新規発行や削除を行う必要があります。手作業の場合、多大な労力が発生します。また、削除が漏れることで次に述べるような重大なセキュリティリスクにもつながりかねません。

  • 退職者アカウントの放置によるセキュリティ被害

    退職者のIDが即座に削除されず放置されることが多発すると、不正アクセスや情報漏えいにつながる恐れがあります。IPA(情報処理推進機構)の「 『企業における営業秘密管理に関する実態調査2024』報告書 」 では、営業秘密の漏えいルートとして「中途退職者(役員・正規社員)」が17.8%と前回比で減少しているものの、「契約満了後または中途退職した契約社員・派遣社員等」は14.6%、「定年退職者」は12.0%と増加しています。

    ※出典:IPA  『企業における営業秘密管理に関する実態調査2024』 報告書より

  • IDやアカウントが発行されていない

    これまで、多くの企業ではPCにログオンするために、ユーザーにIDやアカウントを発行していました。一方、ノンデスクワーカーはIDやアカウントが付与されていないため、社内のシステムを利用する上で次のような問題も指摘されています。

    • 人事情報が店舗など現場のシステムにリアルタイムに反映されず、業務端末にログインできないといったトラブルを招く。 また、現場スタッフが初日から勤怠・給与・申請・連絡ツールを使えなければ、DXの効果は大きく損なわれる。
    • 1台の店舗用タブレットやPCを複数人で使い回す文化が残り、誰がどの操作を行ったかの証跡(ログ)を残すことができない。 これは、内部不正の温床にもなりやすく注意が必要。

  • パスワード忘れなどへの対応

    普段PCをあまり利用しないユーザーが多い環境では、パスワード忘れなどが発生しやすく、その都度、情報システム部門や店長などに問い合わせが集中しやすい点も挙げられます。


「ノンデスクワーカー」問題解決に向けたID管理と認証管理のポイント

ここでは、先述の流通業・小売業のノンデスクワーカーのID管理に関する課題を解決するための取り組みについて考えます。大きく分けて、「ID・アカウント管理」と「認証管理」の2つの面から、重要なポイントを整理していきましょう。

「ID・アカウント管理」では、大量・短サイクルのIDを正しく回し続ける仕組みが必要

ID管理は「登録して終わり」ではありません。現場の回転の速さに耐えられる運用設計まで含めて考える必要があります。そのためにも、次のような仕組みが求められます。

  • 入社日に間に合うアカウント発行、異動・退社も自動でライフサイクル管理

    人事DBと連携し、入社予定情報をもとにアカウントを自動発行する仕組み作りが必要です。異動・退職時のライフサイクル管理を自動化することで、削除漏れによるリスクも抑えられます。

  • 人事DB連携とワークフロー連携の両立

    ノンデスクワーカーの中には、人事DBへ直接登録されないスタッフがいるケースもあります。このような場合には、ワークフローで申請して登録・更新・削除しなければなりません。そのため、正しくID管理を行う場合には、正社員向けの人事DB連携と、非正規スタッフ向けのワークフロー連携の双方に対応できる仕組みが求められます。

  • 認可や必要属性の自動生成

    店舗・拠点・職種などの情報をもとに、利用システムへのアクセス権限や必要なユーザー属性を自動で設定します。大量のアカウント管理を効率化し、運用負荷を軽減します。

「認証管理」では、共有端末・私物端末でも安全に使えることが求められる

認証については、現場のノンデスクワーカーの実態を考慮し、共有端末・私物端末まで含めて安全に使える認証環境を用意することが重要です。そのためのポイントを下記に挙げます。

  • SSO、MFA、パスワードレス認証などの活用

    現場では共有デバイスの利用やBYOD(個人端末の業務利用)が多く、PCを1人1台利用する環境を前提とした認証方式は適さない状況が多々あります。複数の業務システムを安全かつ簡単に使うには、まず認証の統合(SSO)の整備が出発点になります。その上で、MFA(多要素認証)、IP制限・デバイス制限などに取り組むことで、ゼロトラストの実現に近づくことができます。

  • SSOとIdPにより退職者アカウントを一斉に無効化

    退職者対応の観点では、IdP側でアカウントを無効化すればSSO経由の各サービスへのアクセスを一括で遮断でき、削除漏れのリスクを構造的に減らせるというメリットがあります。SSOとIdPによる一元管理は、こうした「消し忘れ」を仕組みで防ぐ手段として有効です。

  • なりすまし防止と確実な本人認証の実現

    ノンデスクワーカーでは共有デバイス上でも使いやすい認証方式が重要になります。共有デバイスでも導入しやすい顔認証は、現場でも活用しやすい認証方法の一つでしょう。利便性を高めつつ、なりすましを防ぎ、適切な本人確認を実現するには、パスワードレス認証を含む複数の方式を業務実態に応じて設計できることが鍵になります。

  • パスワード忘れの自己解決

    店舗責任者や情報システム部門への依頼を必要とせず、本人がセルフサービスでパスワードを再設定する仕組みも有効です。問い合わせ対応の負荷を削減し、現場の生産性向上につながります。


「ノンデスクワーカー」への適切なID管理と認証基盤で流通業のDXを加速する

これまで述べたように、ノンデスクワーカーのID・アカウント管理を整備し、必要な認証方式を提供できるようになることで、DX施策の現場への定着を促進できるでしょう。

もし、ID管理・認証基盤が業務でPCを日常的に使用する従業員を中心に最適化されていれば、多数派となるノンデスクワーカーが取り残され、勤怠・給与・申請・連絡・現場業務アプリなどの利用環境が分断されてしまいます。

流通業・小売業のDXで重要なのは、システム導入自体ではなく、現場で働く人が実際に使える状態をつくることにあります。その鍵になるのは、人事DBを源泉としたID管理の自動化と、共有端末・個人端末を前提にした認証基盤の整備です。

人の入れ替わりが速い業界だからこそ、手作業を減らし、入社・異動・退職に確実に追従し対応できる仕組みを作ることが重要です。そして、現場が無理なく使える認証方式を提供することが、利便性とセキュリティの両立につながります。


まとめ

今回は、オフィスワーカーとは異なるアカウント発行・ID管理・認証の要件を持っている、流通業・小売業のノンデスクワーカーに焦点を当てました。流通業・小売業のDXを推進する上でもノンデスクワーカーのID管理・認証基盤を整備することが重要であり、同時にセキュリティ強化の要となります。

流通業・小売業のID管理に関与する方は、今回の内容を参考に、まずは自社のID管理や認証基盤の現状を見直してみてはいかがでしょうか。フロントラインワーカーを含む多様な利用者を支えるためにも、DX時代にふさわしいID管理の仕組みづくりに目を向けるきっかけになれば幸いです。